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残酷な正しさ。

 カール・ロジャース博士は「カウンセラーは正そうとする前に、相手と寄り添わないといけない」と、カウンセラーの卵たちによく語っていました。 正しさは時に残酷なものです。 ある先生が「生徒と話し合って決めたことなのに、いっこうに行動をしない」とタメ息をついて嘆いていました。 先生の言い分はこうです「生徒と対面で、話し合ったし、相手の話しも〝聞いた″ しっかりカウンセリングしたのに生徒自身は変わらない」 「どんなふうに聴いたのですか?」と僕が質問すると。 先生「自分で勉強がわかったら楽しいだろう」 生徒「はい、楽しいと思います」 先生「だったら、少しでも、前に前に向かって勉強していくしかないだろ」 生徒「はい、やるしかないです」 先生「自分自身で勉強が分かり出したら、面白いだろ」 生徒「面白いです」 先生「だったら、自分で勉強がわかるようになるまでやるしかないな」 生徒「やるしかないです」 先生「じゃ、やるんだぞ」 生徒「はい、やります」 このような会話で先生は話し合いが「成功」したと思ってしまったのです。でも、実際に、生徒はそれからも積極的に行動しないというのです。そうなのです。これは会話ではなく正しさの押し売りです。 人は正論を言われれば「はい、そうですね」としか言えません。でも、それが出来ないから人は悩んでいるのです。その心を〝聴く″のがカウンセリングです。会話は正しさだけを押し付けて、自分としては「聞いた」と多くの人は思っています。 会社でも 「売り上げを伸ばしたいだろう!」「目標は知っているだろ⁈ だったら、その目標に向かってやるしかないな!」 「部下の指導は大切じゃないか!」 家庭でも 「家のこと、子どものことを考えたら、もう少し早く帰ってこないとね」「俺は仕事をして収入を稼がなければいけないのは知っているな」 「家にいる時間は、君のほうが多いのだから、子どものことをシッカリ躾けないと…」 職場でも、家庭でも、一つ一つの会話は「はい、そのとおりです」としか言いようがないのです。 でも、人は「理動」と言う言葉がないように、人は心で動く「感動」の存在です。だから、正しさで押し切られると「おっしゃるとおりです…」と言うしかない。でも「あなたには私のことは分からない」と、心がポツリと後で置いてきぼりになってしまいます。 先日も講座後の食事会で「職場の若い女性が、親に仕送りをしているのです」とある女性が話していた。 「今時、立派ですね」と僕。 「違いますよ。お金を親が求めるからです。だから、彼女は親に『NO!』と言えなくてお金を与えてしまう」 「そうなんですか」 「だから、私は『もう、与えたらダメ』と言っているんです。でも、与えちゃって…」 「私も過去に、そういうコトがあったから、よくわかるの !」 「その娘は、リストカットもしてるみたいで手首に切り傷後がいっぱで…」 「会社側も、彼女がお金を与えないように、会社で積み立てを始めたのです。でも、彼女は親に与えるから少ししか参加していなくて…」 「ある仲間が、『あの娘に恋人でも出来たら、その恋人にエネルギーが行って、親にお金をあたえなくなるのよ』と、皆と笑っていたんですけどね」 と、その彼女の先輩である受講生は教えてくれた。 「そうか、彼女の周囲には味方がいないんだなぁ」 「いや、皆で心配しているんですから私たちは味方です」 「あ、ごめんなさい。そういう意味の味方ではなくて。彼女は周囲に言われなくても『お金なんか与え続けても意味がないし、親をダメにするだけ』と悲しいくらい知っているのだと思いますよ。 それでもやっぱり親に愛されたくて、ついついお金を出してしまう。充分に、バカなことだとわかっていても、やってしまう自分がイヤで、情けなくてリストカットをやるんでしょうから…。もし、彼女のリストカットだけでも止めさせたいなら、味方になるしかないかなぁ」 「味方って⁈」 「ダメだと判っていても、親にお金を与えるなんて、偉いね」「あなたは優しい」って。 「わかっていても、与えてしまうほど、親に嫌われたくないんだよね」 「お金を与えないと、安心して眠れないんだね」って、 「皆で『間違っている!』と責めないで理想どおりに出来ない彼女を受け入れてもらえませんか?」と僕は、理想と現実の狭間で苦しむ女性の先輩にあたる受講生にお願いしていました。 そうすれば少なくともリストカットは治まるずだから… 味方だと言いながら、彼女が自分自身を責め続ける材料になる「正論」を与える応援だけはしないでほしいのです。周囲の応援が、彼女を孤立に追いやる可能性だってあるのですから… 「あなたの為は、裏側は、自分の正しさの為」だったりする。 人って「こんな恋を続けても意味がない」それを誰に言われなくても、本人が分かっている。 「勉強したほうが良い」子どもたちも解っている。 「目標の到達」は社員の誰もが知っている。 「勝つ気でやれ!」も、練習に明け暮れたチームのメンバーも死ぬほど分かっている。 「主婦なんだから家事をシッカリしなきゃ!」は奥さんが一番その正しさで自分を苦しめている。 でも、正論のようにはできない人の、心の悲しみに寄り添えるのがカウンセラーだと、僕は思っています。 それが味方になるってことなのです。 心の扉はノブが内側にしか付いてはいない。だから、真正面からの正攻法では、相手は心の扉を開いてはくれません。 だからこそ、味方になるしかないんだなぁ…人って。

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